Friday, October 18, 2013

ABTのアウトリーチについて

いずれにしても書きたかったことではあるのだけれど、来週課題提出があるので今一度理解を深めるためにも。
(ブログなんて書かずにさっさとessay書いたほうがいいのでは?というのはおいといて)

American Ballet Theatre (ABT)は世界的に有名なバレエ・カンパニーです。プリンシパル・ダンサーにはバレエをやってる人なら誰でも知っているようなダンサーがわんさかいます。来週日本で公演を行うNew York City Balletとともにアメリカでも人気のカンパニーのひとつです。NYCBがリンカーン・センターを本拠地としているのに対し、オフィスやスタジオ、バレエ・スクールはNYにありますが、ABTはツアー・カンパニー(ヨーロッパの劇場のバレエ団のような拠点があるわけではなく、いろいろなところを巡業していく形態)として活動しています。日本もおそらくそうだと思うのですが、アメリカではカンパニーはNPOというかたちで運営されています。チケット収入と寄付金で運営されているわけですが、だいたいこれが半々くらいの割合が理想とされているらしいです。そんなに寄付金に頼っている、というかNPOとして運営しているということも知らなかったので、いろいろと目からウロコ。

さらにさらに。わたしもこのプログラムにはいるまで知らなかったのが、ABTの教育活動。プロのダンサーを育てるバレエ学校があるのはもちろん、公立・私立の学校と連携して教育現場におけるバレエのアウトリーチを90年代後半からやっています。
そもそもなんでこんなことをやっているか、というと、理由はいくつかあります。

ひとつは、未来の観客を育てるということ。おそらく世界中で共通していることとして、バレエの観客動員総数は年々低下しています。バレエが最盛期だった時期に通っていて、バレエを各地で「育てた」観客層が年を取っていくことも要因のひとつ。また、アメリカではバレエを観に行く観客層は、裕福な白人の特に女性が多い。チケットの金額もありますが、特にNYなんかではバレエを観に行くことが社交ステータスの一部になったりするわけです。いろいろと複雑な背景なのですが、とりあえず観客層を広げようとしたわけです。

もっと概念の中心になってくるもうひとつの理由は、芸術教育の重要性です。
特にNYは貧富の差が激しい街。5番街のきらびやかなイメージもあれば、ghettoと呼ばれる治安の悪い地区もあります。未だに昼間ですら危ない地区もあるわけです。低所得者には給食費が免除になるという制度があるようで、貧困地区にはfree-lunch率が90%を超えるようなところもあります。なぜそういうところに芸術教育を持っていくかというと、簡単にいってしまえば、芸術にふれることやプロジェクトを達成すること、達成感をとおして自信をつけたり、表現や発散する術を知ることが、いわゆる負の連鎖を断ち切ることにつながるから。日本ではあまり考えられないこと(大きく取り上げられないこと)かもしれませんが、恵まれた環境にいない青少年に、ちゃんとした教育を受けようという志を持たせること、犯罪率や未成年の飲酒・ドラッグ使用・妊娠などの低下にも芸術教育はつながると言われています。これについては、また後日詳しく書きます。が、とにかく、青少年たちが自分たちの力と責任でプロジェクトに参加することによって、少しでもポジティブに生きてもらいたいというところからきています。

いくつかプログラムがあるのですが、Make a Balletというプログラムでは、ABTからのTeaching Artistsがサポートをしながら年間通してバレエを創るということを行っています。面白いなと思うのが、ただ学校に出向いてバレエを教え込むのではなく、生徒たちがパフォーマンス・チーム、アドミニストレーション・チーム、プロダクション・チーム、デザイン・チームの4つに分かれて「バレエを創る」という点です。パフォーマンス・チームは実際のバレエを踊ったり振付をしたりします。アドミン・チームは、年度末のパフォーマンスに向けての予算計画や寄付金集めなどを行います。プロダクション・チームは、照明デザインと操作をはじめ、舞台の裏方と表方について学びます。最後のデザイン・チームは衣装と大道具のデザインと製作を行います。こうしたプログラムに参加することで、他の学業との兼ね合いも含めた計画性、タイム・マネジメントなども身につけることができる。

テーマは、それぞれの学校や年によって異なります。ABTのレパートリーにベースした年もあれば、美術作品にベースしたときもあります。パブリック・アートをテーマにしたときには、NY在住のパプリック・アーティストとコラボレーションを果たすことができたそう。実際に彼も作品を提供してくれたとか。最終的には、リンカーン・センターのメトロポリタン劇場でパフォーマンスが行われます(豪華!)。

このプログラムに限らず、テーマを決めるときには、学校との連携も必須。例えば、中学2年生は「環境問題」を年間通して学校で取り組みたい、ということであれば、環境問題にベースしたバレエを創ることもできます。パフォーマンス・チームに限らず、ほかの3チームも活動する上で、environmental friendlyにいこうとすることもできますよね。「バレエを創る」ことが最終的な成果にはなるけれども、その過程ではリサーチもあるし、グループ・ワークやプレゼンがあってもいい。さまざまな「能力」を駆使してやっていくので、(これも後日触れますが)ハワード・ガードナーの多元的知能(Multiple Intelligence)の応用ですね。

やはりなんでもそうなんだけど、実際にやってみないと何が起きているのかわからないし、興味もわかない、というもの。ただ観に行ったり、ちょっとしたワークショップだけでなくて、生徒たちの「現実」とバレエを具体的につなげて、それをコミュニティーの中で行っていくこと、しかも複数の学校で行っているのに何年も続けてやっていくことに、なによりも驚きました。金銭面も含めなかなか一筋縄ではいかないこともあると思うのだけれど、バレエでこんなことができるのか、というかやっていいのか、ということ。もちろんこれは、ABTというブランドだからできることでもあるのだけれど。別にこれをそのまま日本でやろうと思ったわけではないですが、この話を聞くたびに「じゃあ日本だったら何ができるのかな」と考えさせられます。バレエのスタジオの運営などについても学ぶというのは分かっていたのですが、こうしたことまで学べるとは思っていなかったので、思いもよらない方向からの刺激で、今まで暗かった脳みその一部が光った感じです。

これでも相当簡略化したので、NPOの活動などに詳しい方には突っ込みどころ満載だと思いますが、ちょっとした紹介ですのでご了承ください。こっちにいるあいだにもうちょっと勉強します!!

PS
ついでに、もうひとつ。ABTは面白いプロジェクトをこの9月に発足させました。Project Pliéというもので、これはより多様なバックグラウンドのダンサーを育てよう、というなんともアメリカらしいもの。観客同様、バレエ・ダンサーたちも白人が圧倒的に多いのが事実(例外もありますが)。今までのアメリカのバレエ・カンパニーに少なかった人種やethnicityにも学ぶ場・活躍する場を、ということでABTのバレエ学校への奨学金を設けたりしています。これのプロジェクトのすごいところはABTだけでなくて、他のいくつかのバレエ・カンパニーとも連携しているところ。ABTを引退したダンサーが他のカンパニーで監督をしたりというのもあるので、そうしたつながりもあるのかと思うと、すごいこと考えるなと思います。